月収１０万　格差実感
　北九州・偽装解散とたたかう若者

　若い世代の格差拡大が深刻です。「食うのにも困っているおれたちの実態を小泉首相は分かってるのかな」ー。偽装解散で正社員の職を追われ、労働組合をつくって反撃に立ち上がる北九州市の２０代、３０代の若者に話を聞きました。
（北條伸矢記者）


　おれたち一週間カレー
　小泉さん　わかってるの？

　門司駅にほど近い労働組合事務所でカンカンガクガクの議論を交わしている４人。昨年７月に擬そう解散した九州定温輸送（本社・門司区）に解雇された仲間同士です。
　壁には各人の日程表。その前に、炊飯器や簡易こんろ、皿、鍋が無造作に並んでいます。


　ふたり目の子

　嫁さんがふたり目を妊娠した。正直言って、あせるよ。もうすぐ６カ月の失業保険が切れるから。安いファミレスにも行けんちゃ」とＫＴさん(31)（※原文は実名）。
　ＫＨさん(29)が早口で切り返します。「そうちゃ。みんなと事務所で自炊よ。１週間カレーを食べ続ける生活で、おしゃれもできん」
　ＫＨさんは７歳の息子とふたり暮らし。コンビニの１日５時間、時給６５０円のバイトでは月収が５～６万円です。役所からもらう児童扶養手当を足して１０万そこそこ。解雇前の手取り１７万に遠く及びません。業務請負会社の求人に応募し、工場で働こうかと物色中です。「２交代で、バイトより時給がええからね」
　最年少のＡＴさん(25)もふたりの子持ち。郵便局の臨時職員でしのいでいます。「高校出てから配管工や大工もやった。ようやく探し当てた正社員の職なのに、またバイトに逆戻りやね」


　組合員を差別

　九州定温輸送は、コンビニ大手「ローソン」への冷凍品配送などを手がけていた会社です。運転手は毎日、出社午後４時、退社翌朝５時という過酷な長時間労働でした。
　有給休暇取得やサービス残業（ただ働き）などの是正を求め、２００１年３月、運転手らが全日本建設交運一般労組・九州定温輸送分会を結成。ところが０５年７月の会社解散後、業務を継承した別会社では非組合員だけが継続雇用されました。
　組合員６人は１月１９日、親会社の「ワイケーサービス」（本社・埼玉県戸田市）に対し、未払い賃金の支払いや地位保全を求める仮処分を福岡地裁小倉支部に申し立てました。
　月８万円の住宅ローンが残り、「安売りのうどんを買い込み、いつも食べよる」という分会長のＮＭさん(32)が説明します。「当たり前の声をあげただけで首を切られるのはおかしい。声をあげ続けないと、おれたちはずっと無権利のままになるもんね」
　九州定温輸送の解散後、０５年８月に組合に加入し、「リストラは当たり前とか、以前は“会社側の視点”で物事を見ていた私だけど、自分が首を切られて初めて身に染みた」という元事務員のＫさんが続けます。
「格差は拡大していないと言いよる小泉さん（首相）も、ここに来んかいな。困っている私らの実態を分かっているのかな。私らと一緒にカレーを食べ、実情を見てほしい。そんときは、辛口、甘口の好みを教えてくれんかな。注文に応じますよ」



　正社員になりたい

　全国でも北九州でも、雇用形態は正規から非正規へと比重を移しています。北九州市が毎年実施している雇用動向調査によると、１９９７年度からの７年間で「非常用雇用」の割合は２０％から３５％に。特に若年層で急増しています。
　派遣・請負最大手「クリスタル」の系列会社を１月に解雇されたＹＲさん(23)＝小倉北区、仮名＝。減員分はすぐほかの応募者で穴埋めされました。工場で働く２０代、３０代はみな、手取り数十万という安月給を補うのに必死だといいます。
「パチンコはもちろん、『１～２万の小金をためたい』と、工場の隅で株取引の電話をする人が何人もいた。ネズミ講みたいな商品販売に手を出す人も多い」
　今も派遣労働者として工場で働くＮＭさん(31)＝同、仮名＝は「若い女の子が本屋で株の本を立ち読みしているのをよく見かけます。みんな貧しいから、仲間の関心も金もうけのことばかりになる」と嘆きます。
「将来の展望が見えず、時折むなしくなります。願わくは、正社員になってから結婚したい」

（後略）


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　日曜版、20006.02.12.日付号）